スイートスポット
2013年04月08日
マツダスタジアムの周辺で咲き誇っていた桜の花びらが散り始めた。日毎、春めいてくる季節の中で背番号7がもがいている。
横浜への移動前に行われた全体練習が終わると野村監督がマウンド方向に向かって歩き始めた。堂林が打席に入り、新井打撃コーチらスタッフが鳥かごを取り囲んだ。
およそ30分のフリー打撃では、時折“らしい”打球が広島の空に向かって舞い上がった。誰にも真似のできないスケールの大きな放物線。だが、実際のゲームでは“らしさ”が影を潜めたまますでに8試合を消化した。
「20発と99三振です」
2月1日のキャンプインを前に「シーズンの目標」を記者から聞かれた際にはそう答えた。一軍デビューで144試合に出続けた2012年シーズンが14発、150三振。同年、セ・リーグ最多が巨人阿部の27本塁打。堂林の14本は巨人坂本と肩を並べる日本人2位タイで、セ界のホームラン王争いに向け夢は広がる、はずだった。
開幕からスタメンで結果を残している丸や菊池、オープン戦で安定した安部や松山と同じように堂林も新井道場で鍛えられ、打撃スタイルを変化させてきた。テーマは…、いろいろある。だが、基本はボールをとらえにいくまでに自分がどう構え、どう下半身と上半身、さらには肩、両腕、手の動きを連動させるか。バッティングの根本は不変だ。
日南スプリングキャンプ、早朝練習組が集まる天福球場ライト側奥の屋内練習場。そこには2011年シーズンとはまったく違う打撃フォームでバットを振り続ける堂林の姿があった。
前年までのように構えた時にグリップの位置を極端にキャッチャー寄りにもっていくことがなくなり、同時に上体のひねりが小さくなった。
グリップの高さは肩のラインより少し下げ、トップの位置はそのラインよりやや上になる。
構えた時の両足の位置も肩幅とほぼ同じで、そこから足幅5個分のステップで「レベルスイング」にもっていく動きは前年のそれよりずいぶんシンプルになり“回転軸”もはっきりしていた。
打つことに加えて守ることでも堂林にはキャンプ以降、別メニューが多く用意されてきた。チームメートの誰にも負けない練習量で「充実した毎日が送れています」と手ごたえも口にしていた。
しかし肝心のオープン戦で結果を残せないまま開幕を迎えたことは大きな誤算だったろう。守備の面でも時折、不安定な動きを見せてはいたが、バッティングの方はそれとは比べものにならないほど深刻な状況に陥った。
オープン戦17試合に出場して55打数9安打2打点。ホームランゼロで失策3。打率1割6分4厘は規定打席到達者32選手の中で最下位に沈み、「課題」の三振数19もソフトバンク今宮と並び最多だった。
練習では出来ていることが試合ではうまくいかない。その主たる要因として新井コーチがキャンプ当初から指摘しているのが「バットのしなり」をうまく使えない堂林特有の「バットの握り」にある。
堂林のバットはよく折れる。打率4割を超えた丸のバットが開幕以来、折れたというシーンにはまだ出遭っていないし、そもそも「代打前田」がバットを折る場面などほとんど記憶にない。
単なる木片に過ぎないバットが扱い方によって折れたり、折れなかったりする。
「それはコネるように打つか、しなりを使って打つかの違いなんです。その差はスイートスポットの広さに繋がってくる。しなりを使わないとスイートスポットが小さくなり、そこを外れて打つとバットは折れてしまう確率が高くなるんですよ」(新井コーチ)
実働18年で2038安打を積み上げた“新井打法”はその「スイートスポットの広さ」を最大の武器にしたものだった。その言葉通り、力に頼らず「スイートスポット」で来た球をとらえるスイングは現役引退の40歳のシーズンにさえ65本のヒットを放つことを可能にした。
バットをしならせることで球をとらえることのできるバットの面積が広くなる。その“しなり”を生むためにはバットを握る左右両手の力を加減し、時には引き手の小指をグリップから外すなどして「不要な分の力を殺す」工夫も必要になる。
「堂林の場合は右手の使い方が強すぎる。これは栗原にも言えることで、右手の押し込みが強すぎてコネてしまうととらえたと思った打球もレフト線にファウルになってしまう。仕留めるべき球を打ち損じていると最後は三振に終わってしまう。右手の強い力をいかに殺しながらトップの位置を作っていくか、そういうことを意識しながら彼にはトップを作らせています」(同)
キャンプ、オープン戦を通じて反復練習してきた堂林の打撃スタイルは外見上、大きく変化したように感じる。
しかし、「バットの握り」という傍目からは見えにくい部分に課題を残したまま開幕を迎えた結果、開幕から8試合の成績は31打数5安打1本塁打3打点の11三振で打率・179、得点圏打率・143。144試合に換算するとこのままでは198個の三振を数えることになる。
「ひとつ、ひとつやっていくしかないです」と特打を終えた堂林。「与えられたスタメンから自分の力で勝ち取るスタメン」へ。堂々と、そしてしなやかに躍動する背番号7の姿を待ちわびるファンの期待に応えるためにも、横浜、名古屋遠征と続くこの一週間が大事な試金石になる。

2014年3月22日(土)に「第5回コイのサミット広島」を開催いたします。
「早く日取りを決めて欲しい!」という熱い声にお応えして、日時と場所だけ確定いたします。パネリストの方の人選など不確定な部分もございますがご了承ください。
みなさん最大の楽しみ!二次会の予約も済ませました。場所はもちろんHarayaさんです。今回もまたファン同士の結束を高め(要するに飲み会…)、1991年以来のリーグ優勝を目指すべく熱いシーズン開幕を迎えましょう!
なお初めての方も大歓迎です。私、田辺一球が楽しく!?お相手いたします。もちろんお一人様も大歓迎いたします。
翌3月23日(日)にはマツダスタジアムで午後2時からソフトバンクとのオープン戦が開催されます。しかも3連休の真っ只中です。楽しい「広島ツアー」にしていただければ幸いです。(宿泊施設のご用意はいたしませんので各自でお願いいたします)
★日時)2014年3月22日(土)午後2時「本会議」スタート予定(午後1時30分受付開始予定)※開始時間は、若干変更になる可能性もあります。詳細は、お申込みいただいた方にメールなどで通知いたします。
★会場) ウエストプラザビル2階ホール(広島市中区紙屋町2-2-2、TEL 082-504-3131)
★アクセス) 広島ど真ん中、紙屋町交差点からすぐ。高速バスなら広島バスセンター下車、広島電鉄なら紙屋町電停下車で徒歩数分、JR広島駅からタクシー15分以内。山陽自動車道広島ICより約6キロ。駐車場は用意されておりませんので近隣でお探しください。
★会費) おひとり様3,500円(税込、ドリンク&食事付き)中学生以下は無料。会費は当日、サミット開催前に受付で集めさせていただきます。おつりのないよう、ご用意ください。
★募集定員) 40名ぐらい…
★パネリスト)田辺一球(広島魂!代表)以外は未定
★サミット参加のお募集申込み方法
「本会議」とそのあとの「二次会」の2部構成です。「一球調査団」は、今回は実施しない方向です。「本会議」会場から「二次会」会場まではたぶん、徒歩でも行くことができます。路面電車利用の場合は実費のご負担となります。
参加希望の方は、メールで以下の項目を明記の上、お申し込みください。なお、会費を当日いただくこともあり、キャンセルは極力避けていただきますようお願いいたします。
・お名前
・住所(郵便番号)
・年齢
・2人以上でご参加の場合は残る参加者全員のお名前と年齢
・あなた様、もしくは代表者連絡先電話番号(メールがお返しできない場合がございます。その際にお電話します)
・「二次会」参加の有無(お申込みのあと二次会のキャンセルは極力、避けていただきたいと思います)
・サミット参加回数(今回含む)
・その他、ご要望、ご質問など
覚醒スイング
2013年04月07日更新
お立ち台に上がったふたりのヒーローが、冷たい風の吹きつけたデーゲームのスタンドを熱くした。
「常にみんな声が出ていて、点が入りやすいムードができていたと思うし、みなさんの応援もすごく僕らにとって大きな存在なので、本当にありがとうございました」
4打数で2得点3安打1打点と1四球の活躍を見せた丸がファンにメッセージを送ったあと、マイクを向けられたマエケンが言った。
「チームの状況は苦しいですけど、ファンの皆さんはちょっと暗いです。明るく笑って球場に来てください!」
開幕第2戦で8回1失点の投球を見せながら“不発”に終わったマエケンは、東京ドームでも投げていた130キロ台中盤の高速スライダーを組み立ての中心に据えた。WBCを経験したことで「帰国してから腕が振れるし意外にスピードが出ている」真っ直ぐに変化を感じ取り、スライダーも同じ勢いで振り抜くことができた。
「一番の西岡さんはもちろん、どの打順も怖い」という阪神打線を相手に終わってみれば7回2安打1四球の無失点とほぼ完璧に抑え込んだ。真っ直ぐと高速スライダー、それにチェンジアップを低目に集め、外野に飛ばされたのは西岡の中前田、福留の左飛、コンラッドの中飛の3度だけだった。
6対1快勝の原動力がマエケンの投球内容にあったのは間違いない。だが、打線の援護がなければエースと言えども勝ちようがない。
「二番の丸がいっぱい出ていっぱい帰ってきてくれました!」。ヒーローインタビューの初っ端にマエケンはそう叫んだ。試合の流れを作ったのは8試合消化時点で早くも3度目の猛打賞獲得し、一、二回と立て続けにナイス走塁でホームに還ってきた丸だった。
打つだけではない。走っても守っても球界トップレベルの水準を目指す。丸の“イチロー化計画”は新井打撃コーチの就任と同時にスタートした。
「バッティングは力じゃない、スイングスピードとレベルスイング、そしてボールを見送る姿勢の中にいかに打ちにいく形を作るか、だ」。新井理論をナインに浸透させる作業は前年秋の日南キャンプでその第一歩を踏み出した。
新井コーチが真っ先にやったこと。それはひとりひとりのバットの形状、グリップの形、バランス、重さのチェックだった。
丸のバットはそれまで使用していたものより30グラム前後軽量化され、“スイングスピードの高速化”を可能にした。同時にこれまでダウンスイングをイメージして、構えた時に両肩のラインより高い位置に固定していたグリップを、同ラインのかなり下まで降ろした。
「打撃改造」には勇気がいる。だが丸には迷っている時間はなかった。2011年に初めて規定打席に到達して105安打を放ったのに2012年は70安打を放つのが精一杯だった。目の前に大きな壁があることは分かっていた。2000本安打の新井理論を吸収することで覚醒する自分に賭けた。
2月、再び日南に入るやいなや反復練習が始まった。「レベルスイング」への移行は簡単ではなかった。「まだまだ、自分のものにするには相当かかると思います」。キャンプ序盤は試行錯誤の連続だった。
それでもシート打撃や紅白戦が始まると、丸のバットから快音が響くようになった。グリップの位置が下がったことでスイングが以前と比べてずいぶんシンプルになった。肩の余分な力も抜けたように見えた。
オープン戦の時期になっても極端にバッティングの状態が悪くなるようなことはなくなった。「外の球をとらえることができている。精度をもっと高めたい。手ごたえは感じています」。テーマのひとつだった「確実性」が増してきた。
試合前、新井打撃コーチが上げるトスを打つ、というルーティンはマツダスタジアムでも遠征中でも3月いっぱい続けられた。最初は外角の球を強くショート頭上へ強く打ち返せるように丸から見て左45度の角度から、続いて新井コーチが丸の正面に入り、ネットの影から上げるトスをフルスイングした。
新井コーチには、かつてイチローの打撃スタイルの基本を、このトスバッティングで固めた実績と経験、もっと言えば信念がある。同じ道を歩むことで丸のバットの軌道はそれまでとはまったく違ったものになり始めた。地面と平行にバットのヘッドを移動させ、最後の大きなフォロースルーと同時に風を斬る音が聞えてきた。
オープン戦の時期にはもうひとつのテーマにも挑戦した。オープンスタンスから右足を上げて踏み込もうとすると、相手投手が「クイック」で崩しにかかってくるようになったからだ。
自分のタイミングで打とうとすれば上げた足を降ろした時には完全に差し込まれてしまう。そこで上げた右足を途中で早めに一度、地面と接触させ軽くステップして本来の踏み出し位置に右足を着地させる「二段ステップ」に打撃フォームをアレンジした。
守ること、走ることにおいてもキャンプからワンランク、ツーランク上を目指して丸はやってきた。打つだけではレギュラーにはなれない。同時並行であらゆる課題に取り組みながら丸は2013年シーズンを迎えることになった。
日南キャンプ終盤、丸や安部の屋内打撃練習を見守りながら新井コーチが話し始めた。
「よく少年野球の本などに体重を残して振りにいき、そこからもう一度体重移動などと書いてあるがそれは間違い。それではスウェーしてしまう。ステップして着地した時にピッチャーに向かっていく形ができていれば体重移動していてもOK、言い換えれば下半身は打ちにいく、しかし上半身は残すんです。そしてみんな試合で10の力で振ろうとするけど練習10なら試合は8ぐらいでいいんですよ」
新井理論の引き出しはおそらく無数にあるはずだ。打球音とマシンの油切れの音が一定のリズムで繰り返される現場で話はなおも続けられた。
「ヘッドがうまく使えないとバットが折れたりもするんですよ。そのためにはまずバットの握りから変えなくてはいけない選手もたくさんいる。そうやってヒットを重ねていく。うまくいけば280には届く。その先、いかにして300をクリアするのか?そこにはラッキーなヒットや内野安打も当然、必要になってくるんです」
話の最後に新井コーチ自らが口にした「打率3割」の目標に到達できる愛弟子は果たして…?かつて神戸の空の下、「前人未踏のシーズン200安打」を可能にした新井理論とイチローの振り子打法が紡いだ物語。その続編がこの広島でまさに今、始まろうとしている。